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by chirimendonnya
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『蒼穹の昴』1,2  浅田 次郎  講談社文庫

一昨日にアップしようと思ってたのですが、かなりの分量書いた後に、操作ミスで内容がパーに。すっかりへこんでしまいました。トホホ。

いつもは英語の本ばかりですが、せっかく読んだので、この本の感想を書きたいと思います。全4巻のうち、今日は前半を取り上げてみます。

あらすじ:
舞台は中国清朝末。貧しい少年・春児は、近所に住む怪しい占い婆から、「おまえはやがて天下の財宝を全て手にするだろう」という予言を授けられる。一方、春児の兄の親友だった文秀は、超難関試験・科挙の準備試験を突破する。そして、春児ほか数名の供を連れ、都に上る。やがて高級官僚になった文秀と予言の実現を夢見て宦官になった春児は、否応なく歴史の渦に巻き込まれていく。

中国を扱った小説で、清朝末が舞台とは珍しいですが、スケールが大きいエキサイティングな作品です。日本でいうと幕末みたいな感じで変革とそれに対抗する保守それぞれに大きなエネルギーがあります。あと、”科挙”、”宦官”については特に前半でかなり詳しく記述されており、どちらかに興味がある人は、一度手に取ってみる価値有りでしょう。

1000年以上行われていた科挙は、科挙本試験に行く前に予備試験がいくつかあり、それをパスするのもかなり大変ということ。つまり、本試験受験資格が得られるというだけでスゴイ値打ちがあります。それを勝ち抜いて優秀な成績を収めた者だけが、中央で活躍できるわけです。想像を絶する試験です。片方の主人公・文秀は地方地主の次男坊で、家の格に見合わない行動が多いのも手伝って家では粗大ゴミ扱い。しかし、期待の星だった兄を差し置いてなぜか予備試験を突破。もう一人の主人公である春児他数人を伴い、本試験を受けに出かけます。ひょうひょうとしてクールな彼は、無事優秀な試験を突破。高級官僚への道を歩みます。身分の低い者にも対等に接するなど風来坊的ながら、なかなか大人物になることを予感させます。

宦官。”男”を捨て、ひたすら権力欲と金欲に走る者達、というのが今までのイメージでしたが、そこまでたどり着くのは相当の才覚に恵まれた者だけだったことを、この本で初めて知りました。どういう人がなるのかは知らなかったし、興味もなかったけど、貧しい家庭の子供が家族の生活のために(宦官になる手術を受けるだけでいくらかお金がもらえる)ということが多く、心が痛みます。中には己の境遇を劇的に変えることを夢見て、自ら身を差し出す者もいます。この作品の主人公・春児もその一人。貧しい育ちから予言を成就される可能性を見出せる道が他になかったためです。手術を受ける前にそれがどんなに苦しみを伴うものかは十分説明されているだけに、それだけは、と思いましたが、無理でした。ややクールな文秀とは対照的に、そして宦官のイメージとは違って熱血の主人公らしい主人公キャラクターです。


魅力的な主人公二人を軸に躍動感あふれる前半です。登場人物が多いけれど、個性はしっかりかき分けられていて混乱することはありません。時にファンだジー風の描写や場面があり、それがまた作品の雰囲気に合っていていい味を出しています。すごく昔なようなそうでない時代。他の国なら浮いてしまったかもしれませんが、この作品ではばっちりでした。
by chirimendonnya | 2004-12-10 18:39 | 小説