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by chirimendonnya
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『パイロットの妻』アニータ・シュリーブ  新潮クレストブックス

あらすじ:
教師をしている中年女性キャスリン。彼女は国際線パイロットの夫、一人娘マティと平凡ながらも幸福な生活を送っていた。特に夫とは若い頃の情熱はないものの固い絆で結ばれていると信じている。ところが、ある朝の衝撃的な電話でその生活は一変する。 操縦していた旅客機が墜落し、夫も死亡したという。悲しみにうちひしがれる妻と娘。事故をめぐって流れる様々な憶測がさらにその悲しみを増幅させる。

何かの事故で家族が亡くなったという設定は数多くありますが、多くは乗客の立場でこのような立場の人物は珍しいと思い、手に取りました。事故にハイエナのように群がる人々や周囲の人々の微妙な反応などは非常にリアリティがあり、それに伴うヒロインの心情の変化にも納得しやすくなっています。

いかに夫との絆が深かったか、ドラマチックに出会ったかということをかなり多くの性的描写を使って描いているので、ちょっとうんざりするときがあります。読み終わってみるとそのしつこいくらいの描写があとの話につながっていて無意味ではなかったことがわかりました。それが考えようによっては夫の死より悲しいこととつながっているのです。ヒロインの女性はドラマチックな性格とはいえないので、退屈に思う人もいるかもしれません。ただ、良き妻良き母で落ち着きと良識のある人物ということは良く伝わってきます。だから、夫が密かにああいう目に遭わされていたことが妥当とは思いません。夫という人は妻の目を通して語られるので、特に前半は大変理想的な人物として描写されていますが、とんだ食わせ物です。怒りがこみ上げてきました。と同時に自分が読んでいるうちにかなり感情移入していたことに気づきました。感情描写が丁寧ということと、憎むべき相手にも感情をぶつけすぎない妻の態度が自分にとって共感できたからだと思います。

後半、ヒロインが打ちのめされる箇所の描写は心に残りました。悲しみの余り、自分が持っていた毛糸のスカーフを全てほどいてしまいます。怒鳴るよりもよほど心に迫る感情の爆発です。”平凡だけど幸せと思っていたのに、自分だけが置いてきぼりだったなんて・・・。自分は勝手に一人で酔っていただけなの?”うちひしがれる姿が涙を誘います。いくら何でもこのまま終わったら救いがないと思っていたら、爽やかに終わって良かったです。
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by chirimendonnya | 2005-05-25 20:44 | 小説