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by chirimendonnya
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『楽園のつくりかた』笹生 陽子     講談社

あらすじ:
しゃらくさい都会のもやしっ子・優は突然、母と一緒にど田舎にある父の実家に引っ越すことになる。転校した先の学校は、なんと分校で同級生はたったの3人。しかもそのメンバーと来たら・・・。少人数ということもあり、クラスメイトは優をかまうが、プライドの高い彼は3人を見下すばかり。その態度のせいで忘れたかった秘密がばれてしまう。


かなり終盤まで読み進んでNHKでやっていたドラマスペシャルの原作だということに気づきました。主人公のお母さん役が天海祐希だったことと終盤の物語展開は良く覚えています。読み始めてすぐに気づかなかったのは題名を覚えていなかったのと登場人物のキャラクターの濃さが原因です。

まず主人公の優。レベルの高い私立校に通い、東大を出、一流企業に就職することを夢見、偏差値以外に興味がない、そんな夢のない夢を見る少年。彼の一人称で話が進むのですが、その口調が全くしゃらくさくていやみ。かなりの期間、あの人を見下した態度に我慢したクラスメイトの3人がすごい人格者に思えます。

その3人も何らかのコンプレックスや心のキズを抱えています。だから人の痛みがわかり、それぞれうまくやっていけるのかもしれません。三者三様、人柄になかなか魅力があります。

優にはサル呼ばわりの作ちゃん。彼は唯一の時も地元っ子で家が碁会所をやっている自称”情報通”。分校には当然最初からいます。その次にやってきたのが一見美少女、しかし実は・・の一ノ瀬ヒカル。三番目にやってきたのが大きなマスクの暗い女の子・宮下まゆ。この3人が優のクラスメイトです。

作ちゃんはいかにも田舎のガキ大将風の子だし、勉強もさっぱりなので優はぼろくそにいってるけど、いくらポリシーとはいえ、一癖もふた癖もある他の二人を受け入れられたというのはすごいことで、そういう意味では人格者といえます。

次に見た目は完璧な美少女のヒカル。家が横浜なのに分校にやってきた彼女には重大なわけがあるのですが、あくまでポジティブ、そして自分が大変なときにも気配りを忘れない(ここは優も認めている)のは、なかなか立派です。

そして最後に見るからに暗い宮下まゆ。終盤で重大な役目を果たす彼女も実は都会からやってきた子です。そしてそれには悲しい理由があります。明るく世話好きな二人のクラスメイト、そして素朴な村人に囲まれ、立ち直りつつあるようです。

キャラクターが良くできているのでわかっていても楽しめるかとは思いますが、”秘密”に最終盤まで気づかない方がより楽しめる物語です。私は本当に虚をつかれました。優は本当に寂しく、心弱い子です。でも、あの手の込んだ方法を一人でこなしていたとしたら、現実逃避している最中も案外冷静で自分のすべきことを本当はわかっていた気がします。そう思うとやっぱりせつなくなります。
by chirimendonnya | 2006-10-22 19:40 | ヤングアダルト