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by chirimendonnya
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『時の娘』ジョセフィン・テイ  ハヤカワ・ミステリ文庫

あらすじ:
入院中のグラント警部は、ある日目にしたリチャード3世の肖像画に引き込まれる。シェイクスピアの戯曲によって甥二人を殺した極悪非道の残酷な人物として有名だが、果たしてそれが真実だったのだろうか?そうは思えない警部は片っ端から本を取り寄せ、調査を始める。すると、意外な事実が次々とわかってきた。最後にはどのような結論にたどり着くのか。

歴史ミステリーの傑作。文献を元に歴史上の人物の真の姿に迫る知的な作品です。刑事のカンと方法論で歴史学者とは違った方向で謎を解き明かしていくのは、なかなか面白いと思いました。きっかけが肖像画の印象から、というのも意外性があります。ただ、似たような名前の人物が大変多く、ちょっと混乱しました。巻頭の系図だけでは不足です。メモをとりながら読むべきだったと、ちょっと後悔しています。

これをきっかけにリチャード3世の肖像画を見てみましたが、確かにそんな残酷な人物には見えません。で、色々調べてみると、警部の導き出した結論が正しいことがわかります。そして、その結論が実はもう知られていることも。でも、それはこの作品中に限ったことではないと思います。日本では、『忠臣蔵』の吉良上野介がその代表ではないでしょうか。”実は吉良上野介は名君だった。”というのは、今では割と知られているように思いますが、だからといって今更いやみったらしい老人というイメージは一般的には変わりません。あまりにも忠臣蔵が浸透しているからです。同じようにシェイクスピアの戯曲があまりに有名なので、イメージを覆すのは、なかなか難しいことだと思います。スタートは時の為政者の都合だったとしても。
by chirimendonnya | 2005-01-10 20:46 | 小説