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by chirimendonnya
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『タイタス・グローン』マーヴィン・ピーク  創元推理文庫

あらすじ:
広大なゴーメンガースト城。この中では生まれながらにして身分が決まっており、そこから抜け出すことはほとんど不可能。台所で働くスティアパイクは、ほんの下っ端。普通だったら平凡なつまらない人生を送るはずだ。しかし、野心とある種の才能にあふれる彼は、自らの手で巧みにのし上がっていく。


この本は”ゴーメンガースト3部作”の第1作で、タイトルはシリーズ全体の主人公の名前です。しかし、この作品の中ではほんの子供で、ほとんどストーリーにも関わってきません。そのかわりに実質な主役を張るのが稀代の悪人スティアパイク。華麗なだましのテクニックで人を巧みに引っかけてクールにのし上がっていく彼は、余り好きなタイプではありません。しかし、彼なりに(悪巧みを思い通りに運ぶ)苦労と(だましやすそうな人間を効果的にだます)努力をしており、またその道筋がくどいほど詳細かつエキサイティングに描写されていて、読んでいてわくわくします。ホストもびっくりの美辞麗句には思わず苦笑いしてしまいました。好きではない人でもこうなので、この手のタイプが好みの人にはたまらない人物に違いありません。

彼についてだけではなく、全ての描写が良くも悪くも懇切丁寧。特に人物の描写は容姿・性格共にこれでもか、というほどで、どんな人かが目に浮かぶようです。ただし、まともな人はひとりもいません。どの人もどこかしら滑稽で弱い人ばかりです。あと、登場人物の美男美女ぶりをこれでもかとかき立てる作品が多い中、この作品は全く逆でいかに醜いかを切々と語っています。何もそんなに言わなくてもと登場人物達に同情してしまうほどで、非常に珍しいといえましょう。文章から想像する限り美しい人は一人もいない話は初めてです。

この1冊だけで600ページを超えており、しかも非常に字が小さいです。この量だけでも人を選ぶ上、とても個性的な作品なのでちょっと人には勧めにくいです。描写も登場人物も特濃な上、最初のうちは全く話が進まないので、読んでいてとても疲れました。疲れるので読むのは通勤中の電車に限定。読み終わるまでに1ヶ月もかかってしまいました。それでも読めてしまったのは、色々な要素がいっぱいに詰まっていて飽きないからです。時にコミカル、時にロマンチック。考えようによってはとてもお得な作品といえましょう。
by chirimendonnya | 2005-05-13 22:02 | ファンタジー